ツブサをご覧のみなさんおはようございます、ライター・ピアニストの伊藤夏希です。
高円寺に関わる“若者”にフィーチャーし、その人の生き方や考え、高円寺にまつわるエピソードを深掘りしていく連載「高円寺、若者たち」。
今回紹介するのは、ふたり出版社「点滅社」の屋良さん・小室さんです。
僕が点滅社さんを知るきっかけとなったのは、昨年12月に発行された高円寺のフリーペーパー「SHOW-OFF」の1ページ「ニーネ&点滅社インタビュー」から。
『ニートが立ち上げた出版社…それにメジャーではないアーティストの詩集…この人たちは何者なのだろうか。』と、一気に興味がそそられ、そのままTwitterのDMをお送りしたところ、快く今回のご取材に応えてくださいました。
長いニート生活を経て、昨年6月に設立された点滅社。
11月に刊行された「ニーネ詩集 自分の事ができたら」のほか、現在も詩集・歌集・小説などを出版予定の、ふたりで活動されている出版会社です。
今回は、そんなふたりが点滅社を通して伝えていきたい、“生き様とカルチャー”に迫っていきます。
目次
“なんならこのまま終わってもいい”と思っていた
小室:点滅社を始める前はずっとフリーターでした。社会人経験もなく、スーパーの中でレジ打ちや魚を捌いたりするようなアルバイトをずっとしていたんです。引きこもりの期間も 6、7 年くらいあって、まともな社会経験もなければ、社会経験をする気もなくて、“もうこのままぼんやりと生きるか、なんならこのまま終わってもいいや”と考えていたところ、最後の一手じゃないけど、屋良くんに誘ってもらって今に至ります。
屋良くんは、僕と同じくアメリカンニューシネマみたいな少し古い映画が好きだったりして、とにかく映画の趣味や考えなんかがすごく似ているんです。
出会って仲良くなった頃は家も近かったので(というか僕の家の近くに引っ越してもらったんですが)、自分が見て面白いと思った映画があれば、屋良くんを家に呼んで、“ここが良かった”って意見交換したりして遊んでいましたね。
社会に居場所はないから、自分たちで居場所を作るしかない
屋良:僕は18歳で、地元の沖縄の大学に入学したんですが、その当時、人と関わるのがあまり得意でないこともあり全然大学になじめなくて。それで大学を中退して、21 歳で上京しました。
最初に住んだシェアハウスは、8 人中 6 人は中退・無職みたいな、社会不適合者の集まりのような場所でしたね。シェアハウスってその場所によって雰囲気がさまざまなんですが、僕が住んでいた所はすごく汚くて、ゴミだらけで、、でもみんないい人たちでした。 たまたま社会不適合だっただけで。
そのシェアハウスの風潮として、“社会に居場所がないから自分たちで居場所を作るしかない”という考えが根っこの部分にあったんです。だからそこで“自分の力でやろう”って思いが芽生えて、 いろいろ挑戦してみたところ、唯一当たったのが「ボードゲームカフェ」でした。
初めはシェアハウスの中で、1日12時間500円のボードゲーム会を開いていました。当時ちょうどボードゲームのブームもきていたし、それで 2 年くらいその会を開き続けていたところ、小室さんにも出会います。
お客さんも毎日たくさん来てくれるようになったので、そこからボードゲームカフェ(飲食店)として本格的に始動。本とか何も読まずに立ち上げたからほんとに滅茶苦茶だったんですが、金銭的には上手くいっていたんです。
それでもやっぱり社会不適合の集まりだったので大きなケンカも起きちゃって、、それで終わっちゃいましたね、ロックバンド解散みたいな感じで。そのあとにもうダメだと思って4 年くらいニートになりました。
毎月カレンダーを見ても、精神科に通うか小室さんと遊ぶしか予定がなかったんです。
もう4 年もニートをしていると絶望しかないんですよね、人生に対して。
だからこの全然好きじゃない世界から消えようとも何度も思いました。でも 1 回も戦わないまま死ぬのってダサいなとも思って。
いや他の人はダサくないけど、僕がやるとダサい、というかダメなんです。僕が今まで見てきた映画のヒーローはみんな戦って死んだのに、僕だけ戦わないなんてダメだなって。
そこで戦うために点滅社を作りました。
自分の事ができたら
点滅社で「ニーネ詩集 自分の事ができたら」を出版した理由はたくさんありますが、一番はニーネに対する恩返しです。
もちろんニーネ以外にも好きなバンドや音楽はたくさんあるんですが、ニーネは25年間も活動しているのに、知名度が低くて全然誰も知らないんですよね。だからみんなに発見してもらいたいし、もっと存在を広めたいと思って。
あと、ニーネは歌詞がすごく優しいんです。
詩集のタイトルにもなっている「自分の事ができたら」は、実は代表曲でもなんでもないんですよ、ベスト盤にも収録されていないし。
でも、「自分の事ができたら」をタイトルにしたのは、「大切な人がいなくなっても、自分で自分のことをできるようになろうね」という思いがあって。 人を勇気づけたり、慰めたり、そんなお守りみたいな1冊を作りたくてニーネを選びました。
ニーネは「続けるために頑張ろう」、「生きるために頑張ろう」のような鼓舞する作品が多いんですが、僕は「頑張ろうぜ系」と「もういいよ、諦めよう系」の両方、どちらの思想も必要だと思っています。両方あると絶対救われる人間が一定数いると思うんですよね。
たった1冊の本を読んでも人生は何も変わらないけれど、映画も本も、観ている間だけでも、そのたった2 時間だけは絶対に最高のものにしなければならないと思うんです。
そうしないと、どんどん線路に人が飛び込んでいくんですよね。
君がつくりたい本は100%君の手でつくれるから
点滅社を開業したのは去年の6月、「開業するなんてすごいね」と言ってくれる人もいっぱいいるんですが、全然すごくないんです。こんなの誰にでもできるんですよ。
悪口みたいになっちゃうけど、編集者や出版社って、“高学歴・エリート・経験者”みたいな人しか入れないイメージがあるじゃないですか。
それがむかつくって思うときもありますが、でもその人たちのおかげで出版社は成り立っているとも思うので(もちろんリスペクトもあるんですが)。
でもそうなると、「じゃあいい大学を出ないと出版社には入れないのか、本は作れなのか」というイメージがつくと思うんです。
それを僕は完膚なきまで破壊したいんですよね。
すごく嫌なんです、“エリートしか本は作れない”みたいな。作家の人は中卒だったりと、然程学歴は関係ないけれど、でも出版社や編集者は裏方だから“能力が高くないと無理”みたいなのがあって。
絶対こんな編集なんて誰にでもできると思うんです。 僕は学力なんてないし、偏差値 44 の大学を中退しているし、サブカルに触れ始めたのも17、8歳くらいで、それまでカルチャーなんて全く興味なかったし、でも出版社を作れたから。
お前なんていたっけって影が薄い奴でも、社会不適合者でも絶対できるから、君が出したい本は100%出せるから、だからもっとみんな来い!って思うんですよね。そうするともっと出版業界やカルチャーが盛り上がると思うんです。
でもいきなり出版社を立ち上げるって、やっぱり難しいことだらけです。原価計算とかしたけど間違えていたので。。
ニーネ詩集は税込み 2200 円なんですが、2000 部売れても赤字なんですよね、お金使いすぎて。だからみなさん、ぜひ買ってください、2000部以上。助けてほしいです。
俺が照らすからお前が行け
今後は、カルト映画の復刻や音楽レーベルの立ち上げなど、カルチャーに携わることをたくさんやりたいし、カルチャー好きの人口を増やしていきたいです。あと、高円寺で本屋さんをやろうかって話にもなっています。
ドイツではボードゲームが日常にあるらしいんですよ。カフェでなければできないとかじゃなくて、普通にお家でご飯食べるのと同じようなノリで手軽に遊ばれているらしくて。
それと同じように本や音楽も、もっと手軽なものになってほしいし、それができるのも僕たちしかいないはず。せっかく会社を立ち上げたわけだから、いっぱいいろんなことをしたいですね。
今のところ、年に4冊…嘘、無理かも。3 冊か2 冊本を出しつつ、他のことにも手を出して、潰れて、終わりみたいな感じになれるといいなと思っています。
あとは、「点滅社」の名前の由来となった、筋肉少女帯の「サーチライト」という曲があるんですが、その曲中で「俺が照らすからお前が行け」って歌詞が出てくるんです。
俺は死ぬから、てかもう長くないから代わりにお前が生きろって感じの曲。
僕らはあれがやりたくて。みんなお先真っ暗な中、今を生きていると思うので、少しでもその暗闇の中で光を照らして、勇気づけられれば、頑張ってもらえれば。
で、僕らはやることやったんで帰ります、みたいな。 そんな存在になりたいです。
「点滅社」プロフィール
点滅社
東京のふたり出版社。詩集、歌集、小説などを刊行。
「ニーネ詩集 自分の事ができたら」発売中。
4月頃に「展翅零第一歌集 incomplete album」を刊行予定。
ライタープロフィール
伊藤夏希
1998年生まれ。宮崎県出身、高円寺在住。
武蔵野音楽大学演奏学科を卒業後、サラリーマン・ライター・カメラマン・ピアニスト・ピアノ講師・YouTuber・アートユニット「お通し」として活動中。
3月25日 ピアノ&サックスコンサート『設定温度』
9月17日 ピアノソロコンサート『長月、思い出にするには勿体ない』を開催予定。
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