高円寺喫茶店「甘味処あづま」地元で半世紀愛されたお店が、2023年末に閉店を迎える。

高円寺喫茶店「甘味処あづま」 (9)
文章:シゲタ
高円寺

高円寺喫茶店「甘味処あづま」が2023年の末(お父さん仰るに12月いっぱい)で閉店する。

お店は昭和43年に創業。
55年間(半世紀以上)中通り商店街でお店を続けられてきた。

開店当初からご近所で今でも残っているお店は、向かいの「幸寿司」や「丸十ベーカリーヒロセ」くらいなのだそうだ。
当時あったお店のほとんどは持ち物件で、今では人に場所を提供することで当時とは違うお店が並び、現代の商店街の景観になっている。
そんな中あづまは、賃貸でずっとお店を続けてこられた。

閉店理由を伺うと、キッチンに立たれるお父さんが80歳を迎え、老後をゆっくり過ごされたいとの事。

お父さんもお母さんも変わらずくったくない笑顔で、悲観的な表情はなく、お店を出る時「年内もう少ないけどまた来てねー」と明るく見送ってくれた。

きっとお店を存分にやりきられたのだろう。

「ほんとうにお疲れさまでした!ありがとうございました!」がかける言葉として相応しいのではないか、と思った。


高円寺で「甘味処」という難しい業態を半世紀以上続けられてきたことを、私の様な一ライターが想像することなんて到底できない。

私は、お母さんの人情味溢れる温かく優しい接客、昭和な景観、白玉クリームあんみつが大好きで、ふと思い出してはお店に通った。
野菜が不足しているなぁと感じた時は、野菜そばを食べに行ったりもした。
しかも価格が550円と、令和の時代にはありえない価格で(普通の中華そば450円!)。

お店の存在が、心の拠り所のひとつだった。

近年では、お店のノスタルジーさが若者に支持され、SNSで見かけることも多く嬉しかった。

愛が溢れるお店が街には不可欠で、こういうお店ほど長く残っていくんだよなぁと勝手に思っていたりした。

こんな素敵なお店が無くなってしまうのはとっても寂しいので、高円寺の歴史の為にも記録を残しておきたいと思った。

高円寺喫茶店「甘味処あづま」昭和43年に創業したお店

お店は高円寺駅北口から歩いて5分ほどの、中通り商店街沿い左手にある。

「あんみつ」と書かれた水色の小さな旗と、歴史が染みついた色のテントが目印。

ちなみに建物二階には今は無き「バロック」の看板がいまだに残っている。
こちらはなかなかなカルトショップで、エグイ内容の映像作品やグッズが販売されていた。

建物に、高円寺の歴史が染みついている。

ちなみにこの建物、数年後には取り壊しが決まっているそうだ。

可愛い「あんみつ」の旗はもはや、アニメちびまる子ちゃんの初期オープニング「ゆめいっぱい」の世界観。
そらそうだ。
ちびまる子ちゃんは1970年代前半の設定で、あづまオープンが1968年だから年代がぴったり。


お店の向かいの「幸寿司」は昭和40年創業なので、あづまより3年ほど早くお店を構えている。

幸寿司は現在3代目で、あづまは創業者が率先している所も対比として感慨深い。

味わいある、発光型の立て看板。

よく見ると手書きで達筆。
こういう職人さんが当時はいたのだろうか。

店前ディスプレイの食品サンプルもとても素晴らしい。

「これだよ!これこれ!」と嬉しくなる。

上は甘味で、下段には食事メニューが並ぶ。

高円寺喫茶店「甘味処あづま」SNSで発信したくなる感覚が、見て取れる景観

店内は昭和の雰囲気を残しながらも、とても綺麗。

メニューディスプレイ裏の青いガラスがなんともお洒落。
店内への光の入り方がとても良い。
天井の電気もオレンジ色のカバーがレトロで雰囲気がある。

若者がSNSで発信したくなる感覚が、見て取れる景観。

こちら側はすべてテーブル席で、4人掛けも一席ありとても使い勝手が良い。
すべての卓上にはラーメン用コショウ(GAVAN)が置いてある。

ちなみにお店の営業時間は、長い時深夜1時までやっていたことがあるそうだ。
当時は街がとても元気で、周りのお店もほとんど深夜帯電気がついていたらしい。

店内の奥側。

奥にはL字のソファー席。
常連さんがお母さんと談笑している光景もよく目にしたなぁ。

そして奥の壁だけ2面、壁紙が素敵な孔雀緑色になっている。
手元の料理を撮影する際、映り込むソファと壁紙の色がとても可愛い演出をするのだ。

高円寺喫茶店「甘味処あづま」メニューの価格は20年以上変わらない

壁に手書きのメニュー。

特に見てほしいのは左側の食事メニュー。
中華そば450円に、カレーライス500円!

甘味処としての建付けなので、この価格になっているのだろう。

お父さんに伺ったところ、価格は消費税3%に上がった頃(平成元年)から、20年以上変わっていないのだという。
その時も10円、20円上げたくらいだったそうだ。

お客さんからも「値段上げたら?」と過去何回も言われてきたそうだが、この価格を長年貫いた。

地元の人に気軽に来てもらいたいという現れだったのだろう。

かき氷メニューも揃える。

夏に甘味処で、かき氷。

なんとも良い景観が生まれていた。

高円寺喫茶店「甘味処あづま」甘味処に餅入りそばがある事は不思議なことではない

今回は、餅入りそば(550円)を注文。

ひときわ珍しい餅入りが、あづまラーメンの代表格だと感じる。

ファミリーレストランが無い昭和の時代は、中華料理屋にオムライスがあったり、蕎麦屋にカツカレーがあったりすることは普通だった。
それは甘味処も一緒で、街の食堂の一面があった。
なのでトッピングに甘味処と相性が良いお餅が入る事は、当時から珍しいことではなかったそう。

スープは、いかにも「昭和のラーメン」という感じの鶏ガラ醤油で、とっても優しい味わい。

近年の外食ラーメンの濃い!旨い!とは真反対で、ジュンワリ染みわたる滋味深さがあり、体に優しい。

コショウがまた合う。
昭和ラーメンの良さだ。

麵線が整った中細ストレート麺は、食感がとても柔らかい。

けっこうクタめなので、この麺はのど越しを楽しむのが通の食べ方なのかもしれない。

噛みしめる度に、自分が幼かった頃食べたラーメンを思い出す。

当時の中華そばは皆こういう味に感じた気がする。

これこそが、昭和ラーメン王道の味なのかもしれない。

懐かしい味が令和に健在。

焼き立てのお餅。

箸で持ち上げるとウニョーンと伸びる。

優しい鶏ガラ醤油にとても合う。


もちろん現代のラーメン屋ほどインパクトはない。
しかし未だに残る「昭和の甘味処が提供するラーメン」として食べるのに、価値ある一杯だ。

高円寺喫茶店「甘味処あづま」絶品すぎる白玉クリームあんみつ!

デザートに、白玉クリームあんみつ(500円)を。

令和のスイーツ店に全く負けを取らない、私の大好物。

まず白玉が、モッチモチぷるぷる!
やっぱりぷるぷる食感の食べ物は白玉が一番だなぁと、あづまのあんみつを食べる度に思う。
日本人に生まれて良かった。

そこにクリームとアイス、粒餡がまじりあった時のハーモニーがピカイチ。

寒天も臭みが全くなくて、溶けはじめたとアイスと一緒に食べると何とも至福。

嬉しいサクランボ、そしてバナナとあんこの組み合わせ。

私が一番好きなあんみつはこれなのだ。

高円寺喫茶店「甘味処あづま」残りの営業までぜひ一度行ってみて

「中」の文字が泣いているように見えた

お店は2023年12月末に閉店予定。

高円寺と甘味処の歴史を感じに、残り時間ぜひお店に足を運んでみてほしい。

古きを知り、新しきを知る。

きっと何か、今の時代のヒントになるものが隠れている。

お店が無くなることは寂しいが、時代は巡る。
高円寺の風景は変わっても、新しいものを受け入れて前に進んでいかなければならない。



文章:シゲタ

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