【高円寺、若者たち #6】“ふたり”だから死ぬ気で音楽ができる。高円寺のライブハウスが生んだフォークデュオ【HONEBONE】

高円寺

ツブサをご覧のみなさんおはようございます、ライター・ピアニストの伊藤夏希です。

高円寺に関わる“若者”にフィーチャーし、その人の生き方や考え、高円寺にまつわるエピソードを深掘りしていく連載「高円寺、若者たち」。 

今回紹介するのは、アーティスト「HONEBONE」のボーカルEMILY(エミリ)さん、ギターのKAWAGUCHI(カワグチ)さんのふたりです。

生まれも育ちも、共に高円寺のふたり。過去には、インディーズグループとして異例となる、NHK BSでのレギュラー番組『うたう旅~骨の髄まで届けます~』を担当したり、品川ヒロシ監督映画『リスタート』(2021年公開)にボーカルのEMILYさんが主演として抜擢。さらに、読売ジャイアンツ・丸佳浩選手の入場曲「夜をこえて」を提供するなど、音楽シーンを飛び越えた活動も積極的に行われています。

アコギと生々しい歌声、そして飾らないキャッチーなキャラクターが評判を呼ぶ「HONEBONE」。
今回は、そんなふたりの出会いと、約9年に及ぶ音楽活動、そして新たにリリースしたアルバム「祝祭」について深堀していきます!

そろそろ“ちゃんと音楽”するべきじゃね?

ふたりの出会いは、高円寺のライブハウス。共通の友人たちでバンドを組むことになり、その中で一緒のバンドメンバーとしてスタートしたのがはじまりです。

EMILY:私はそれまで音楽経験なんてなくて、聴いていた音楽もエミネムとか、マリリンマンソン、アヴリルラヴィーンとかでした。

そんな中、ある日友達に突然誘われて高円寺のライブハウスに行くように。当時のライブハウスは、ゴリゴリに入れ墨が入った人とか、ちょっと尖っている人とかがいっぱいいて、まさにマンガのNANAのような世界観。なんだか少し怖かったのを覚えています。でも、カワグチくんはそんなライブハウスにいた人たちと少し雰囲気が違くて。

他の人たちはみんなギラギラしていたけど、カワグチくんだけ眼鏡とポロシャツなんかで、当時はアキバ系のTHE・オタク!みたいな感じでした。でも去年くらいから急に垢抜けたんです、美容室を変えたのもあって(笑)

年齢も6歳年上だったけど、ライブハウスにいた人たちの中では、唯一心を開いて話せる存在でした。

KAWAGUCHI:エミリって、そういう人と仲良くなりがちなんです。陰キャっぽい人というか、オタクっぽい人というか、平たくいうと童貞みたいな人(笑)

エミリは外面と内面のギャップがすごくて。だって見た目パリピっぽそうなノリ良い姉ちゃんって感じがするのに、内面はめちゃくちゃ人見知りな男の子みたいな感じなんですよ。

EMILY:もう心は中2男子です、キラキラ女子なんかと話せない。高校生の頃も、キラキラ女子の中にいたけど、急に「私この人たちと飯食うのやめた」なんて言って、別の男の子と2人だけでつるむようになりました。

なんか女子とごはん食べるのが急に恥ずかしくなっちゃって、うちら“なんとかズ”みたいなノリも、ジャニーズの話も無理だったし。

だから、今高円寺でよく飲むやつらも、ラジオリスナーとか映画オタクのような男子が多いです。で、いつも高円寺の四文屋なんかで飲みながら、最近観た映画の話をしたりして。 去年なんか『シン・エヴァンゲリオン』の話で大フィーバーしていました、みんなで集まって「どこで泣いた?」って。オタク気質なんです。

KAWAGUCHI:僕がライブハウスに行くようになったのはエミリと全く逆で、元々すごく音楽が好きなのもあって、高円寺のライブハウスによく足を運んでいました。だから、バンドもずっとしたかったけど、一緒にする人もいなくて…

そんなときに、再会した旧友からバンドに誘われ、そこにボーカルとしてエミリがいて、一緒にバンドを始めることになります。バンドをしながらも、最初はレコード会社、のちに塾講師として仕事と並行しながら音楽活動を続けていました。

バンドメンバーも全員高円寺の人間で、それこそ銀杏BOYSの峯田さんが使っていた今はなき音楽スタジオでよく練習していましたね。

HONEBONEとして2人で本格的に活動をスタートしたのは2014年から。

EMILY:それまではなんとなく遊び感覚でバンドをしていましたが、だんだんみんな大人になって、就職して…

でも私はそのままフリーターで、カワグチくんも働きながらも音楽を続けてはいて、気付いたら私たちふたり以外はみんなやめちゃったんです。

周りからも「ふたりで活動ってやばいね」と言われながらも、2014年頃「そろそろちゃんと音楽するべきじゃね?」と話し合って、活動をはじめました。

KAWAGUCHI:不思議なのが、そこで“ちゃんと働こう”じゃなく、“ちゃんとふたりで音楽をしよう”となったところ。

当時僕は30歳目前、エミリは23、4歳くらいだったから、かなり遅めのスタートでした。

ただ、その時点でふたりとも仕事やバイトをやめたわけでなく、働きながらも、ふたりでグッズやフライヤーの制作をしたり、全部0からスタートしましたね。

ふたりだから死ぬ気で音楽ができる

活動を開始した2014年から2020年までは、バンドの人たちみんながやっていることを、私たちも真面目にやろうと奮闘した年です。その結果、テレビやラジオなどメディアでの露出も増え、少しずつ音楽活動だけでも生計が立てられるようになったので、2020年からはふたりとも仕事を辞めて、音楽一本で生きていくようになります。

コロナ禍に入ってからも特段焦りはなく、むしろチャンスだと捉えるように。2020年はライブ配信に力を注いだこともあり、よりたくさんの方に応援していただけたので、経済的にも精神的にもかなり安心して活動を行えました。

当時はライブ配信もまだ新鮮で、バンドじゃなくふたりだったからこそ、すごく楽に配信できたんです。

ご時世的に、複数人のバンドメンバーが集まるのはそもそもどうなの?という声もあったけど、自分たちは近所だし、高円寺に住んでいるからチャリで会えたし、なによりふたりきりだし、ほんとふたりだから生きていけたなと。

でも、去年はすごくしんどかった。みんな配信も飽きちゃって、ライブに来なくなる人も増えて…

2021年は、地方の小さなライブハウスに行くと、すごくお客さんが喜んでくれたんです。

だから、2022年もそうして日本各地で音楽活動をしたのですが、思いのほか喜ばれなくなってしまって。

周りも飽きちゃったのかもしれません、「2年目はもういいかな」みたいな。

同じことを2回するのは違うんだとツアー中に気づかされちゃって、なかなか走り抜けるモチベも持てず…

せっかくライブに来てくれたとしても、声をまだ出せる状態じゃなかったから決して良い条件というわけでもなく。

ライブが面白いものではなくなってしまったかもしれないと感じて、自分たち自身のモチベも下がってしまったし、とにかくしんどかった。

そんな中、ふと我に返ったときに、それまでファンに向けて行っていた音楽活動が、自分たちを知らない人たちには全く届いていないことに気づいたんです。

なんか全国旅だけして、新しい広がりもなく、誰にも自分たちの音楽が届いていないんじゃないかと怖くなって、世間から無視される前に「新曲をリリースしなきゃ!」と思って、今回のアルバム「祝祭」を制作しました。

少し前まで鬱だった状態から、今はアルバム名「祝祭」の通り、お祭り騒ぎのような状態になっているので、もっとたくさんの人にHONEBONEの音楽を届けたい!と、モチベもかなり高まっています。

ただ、今はライブが赤字になると一番きつくて、チームとしてこのバンドを経済的に成り立たせなければならない責任感もあるので、生活がだいぶシビアなものになりましたね。

でも、だからこそ今が一番楽しいです。だって死ぬ気で音楽しているから。

自分たちではなく、ファンが100%満足してくれるような音楽を

EMILY:私、どちらかというと実はそんなにライブハウス好きじゃなかったんです。煙草も好きじゃなかったし、酔っている大人もいっぱいいたし、なんかうるさいし、、いまだに自分に合っている場所とは思えない(笑)

でも今、コロナ以降になって特に感じるけど、やっぱりお客さんと一緒にいられるあの空間は特別で、居心地が良いんですよね。やっぱりライブハウスは私にとって帰ってこられる場所で、私はここでしか仕事できないんだなって。

KAWAGUCHI:僕もお客さんのことをどれだけ掘り下げられるか、どれだけ満足して帰ってくれるのか常に考えて音楽活動をしています。せっかくお金を払って聴きに来てくれるわけだから、100%満足してもらえるように、普段からいろんな人のライブに行っては、お客さんはどういう反応をしているかなって、お客さん目線で研究したりしています。

EMILY:私たちのファンは、中高年とファミリー層が多いんですよ。普段ライブハウスに行かないような、なんなら行ったことないような一般の人が多い。だからできるだけ「ライブハウスでHONEBONEが聴けて良かった」と思ってもらえるように、お客さんの満足度はしっかり出したい、なんならお客さんが100%楽しんでくれたかどうかが一番大事だと感じています。

自分たちのいいものを見せるというより、お客さんが満足してくれるようなパフォーマンスをしようって。

だから私はライブ中、できる限りお客さんの目をしっかり見て歌うようにしています。

中には泣きながら聴いてくれる人もいるし、やっぱり私はお客さんに届けたい気持ちが強くあるから、目を見てしっかり歌うようにしていますね。

今作「祝祭」は、よりHONEBONEをラフに楽しめるアルバムに

HONEBONE – 祝祭 (Music Video)

今作「祝祭」は、昔ほど尖った楽曲も、暗い楽曲も少ないので聴きやすいかなと思います。だから車の中や家の中とか、生活のさまざまな場面で聴いてもらえればうれしいです、あんまり真剣に聴きすぎず(笑)

もちろん自分たちなりに、ひとつひとつの楽曲にいろんな意味も込めていますが、聴く側はそんなの気にせず、「なんかいい曲だな」とラフに楽しんでもらえたらうれしいです。

歌に関しては、実はひとつ前のアルバムから少しずつ歌い方を変えていて、大人っぽいソフトな歌い方になっているので、その点も注目して聴いてみてください!

目指すは高円寺のYOASOBI

KAWAGUCHI:今後は1000人規模のライブを軽々とできるようなアーティストになりたいです。とにかく僕らはライブが好きで、お客さんの顔を見れるのが本当にうれしいので、もっとライブに来てくれるお客さんが増えればなぁと。1000人って今はちょっとハードルがあるけど、でもそれくらいの規模をビシッとやれるようになりたいです。

EMILY:私も今後の活動に関してはカワグチくんと同じく、ライブに来てくれるお客さんがもっと増えてほしいなと思っています。でも強いて別のことを言うなら、ツイッターで間違えて「あ」と一文字呟いただけで2万いいね!とか付くような、こじはるさんみたいな人間になりたいです。あと、高円寺版のYOASOBIさんになりたいです(笑)

EMILY:今ってオシャレな人たちが「逆にオシャレ」みたいな感じで高円寺に来たりしていますが、うちらはガチの高円寺の人間なので。高円寺芸人の皆さんも地元は高円寺じゃなかったりするけど、うちらは地元も高円寺の人間なので!

KAWAGUCHI:僕もパル商店街のマッサージ屋によく行ったり、ほんとに全部高円寺で完結しています。

EMILY:もう高円寺から出たくないんです、出てもギリ中野くらい。本物の高円寺の人間なので、オシャレぶっているようなエセ高円寺人は許しません!

KAWAGUCHI:エミリが一番エセっぽい見た目しているけどね(笑)





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◆HONEBONE 7thオリジナルアルバム「祝祭」◆

2023年4月26日 各サブスクリプションサービスにて配信中。 

読売ジャイアンツ・丸佳浩選手の入場曲「夜をこえて」収録、フォークデュオHONEBONE、約1年ぶりのオリジナルアルバム。

他の配信サービス一覧はこちら



「HONEBONE」プロフィール

HONEBONE

2014年結成、EMILY(エミリ/ヴォーカル)とKAWAGUCHI(カワグチ/ギター)の2人組。共に東京・高円寺出身。
アコギと歌の生々しいサウンド・歌詞・キャラクターが評判をよび、全国各地でライブ活動を展開。

2015年リリースの2nd Album『SKELETON』で、グループの基本スタイルを確立。
ネガティブな感情をメインテーマに楽曲を作り続け、以降2022年までに4枚のオリジナルアルバムをリリース。

2019年、EMILYが『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京)に出演、いじめ体験や持病について語ったことで全国的な認知を高める。

2020年にはインディーズグループとして超異例のNHK BSでのレギュラー番組『うたう旅~骨の髄まで届けます~』がスタート。

また、品川ヒロシ監督映画『リスタート』(2021年公開)にEMILYが主演として抜擢。HONEBONEとして劇中音楽・主題歌を担当する。

2021年には警視庁の依頼で自転車事故防止キャンペーンソング「自転車の正しい乗り方のうた」を制作。

2022年には読売ジャイアンツ・丸佳浩選手の入場曲「夜をこえて」を提供するなど、音楽シーンを飛び越えて活動中。

2023年4月26日「祝祭」各サブスクリプションサービスにて配信。

2023年11月4日、自身最大キャパシティの会場である恵比寿LIQUIDROOMでのワンマンライブに挑戦する。

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ライタープロフィール

伊藤夏希 

1998年生まれ。宮崎県宮崎市出身、高円寺在住。 
武蔵野音楽大学演奏学科を卒業後、サラリーマン・ライター・カメラマン・ピアニスト・ピアノ講師・YouTuberとして活動中。

3月25日 ピアノ&サックスコンサート『設定温度』
6月15~30日 写真展『この街で生きた、あの頃のこと。』
9月17日 ピアノソロコンサート『長月、思い出にするには勿体ない』を開催予定。 

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